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B1病棟@其の5

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B1病棟@其の5



意識が戻ったとき、天と地がひっくり返る思いがした。
俺は拘束帯で手足を縛られ、さらに腰ベルトでベッドに固定されて、ペニスは道尿の管を差し込まれているではないか。

「これはいったい何なんだ。」

何の説明も無く、このような人権侵害があるものであろうか。激しい怒りが襲ってくる。
すでに人としては扱われない行為である。
プライドも自尊心もずたずたに切り裂かれた。
話し合えばわかるのに、その努力も何もせず、いきなり拘束と導尿のショックは今後の病院治療にも逆効果であろう。
深く傷つき、ますます怒りの炎に身を焦がしていた。
その病室は完全に鉄格子で囲まれ、天井の監視モニターで一部始終を監視されている。

「藤沢 拓哉さん、気がつかれましたか。十四時間も眠っておられましたよ。」

若い看護師がやさしく話しかけてくる。
あたりはしんと深まり、くさい尿の匂いが漂っている。
病室はトイレとベッド以外は何も無く、道尿からは無意識に尿がチューブを伝い、ビニール袋に溜まってゆく。
排尿を意識しなくてもたらたらと漏れ出すものだと初めて知った。

その雫を飽きもせず、ずっと眺めているだけだった。


何時から何時までこの状態が続くのか誰も教えてくれない。
心が怒りと焦りで支配されている。
まるで犬のおまわりさんのように困ってしまってワンワンワワーンだ。

どうもこの躁状態と思える病状は、自分が思っている以上に時間と強い薬を必要とされているようだが、一刻も早く此処を出て、あの会社と交渉しなければならない。
リーマスと言う薬を処方されたとき、舌のろれつが回らなくなり、それが不快でこっそりティッシュに丸めて捨てていた。
しかし直ぐに担当医の羽田Dr.に見破られて薬の処方についての説明があった。
三十七前後の体格の良い先生だ。

「藤沢さん、薬を飲んで頂かないと点滴による処置を取らざるを得ません。」

「今回はリーマスの副作用の可能性があります。」

「アメリカではファーストチョイスでデパケンと言う精神安定剤が処方されています。」

「今日から投薬を変えてみますので、どうか吐き出さないで下さい。」


「このおお、藪医者ああめいい。若造のくせに何の権限でこんな目にあわせるんだ。」

「俺はキチガイじゃない。」

「カッコウの巣の上でのジャックニコルソンの様に俺の脳をいじくり回して、本当の精神異常者にしてやろうとしているんだなあああ。」

「あんたも一回ビデオを見ておれの気持ちを理解してみろ!」



「解かりました。必ず見てみます。藤沢さんのことを少しでも理解したいと思いますから。」

「しかし、もうひとつ私の大切な仕事があります。」

「それは残された藤沢さんのご家族の今回のことによる精神的な心のケアーです。」

「ご家族の皆さんはかなりのダメージを負われていますので、ほっておけば一家離散になるケースも多いんです」

「・・・・・・。」

「ほう、そういう事までやってくれるのかい。」

「患者だけで無く、その家族の精神ケアーまでするのか。」

「少しだけあんたのことを信用してやろうかな。」

「今の藤沢さんは生まれたての赤ちゃんの様なものです。」

「すでに色々なことがリセットされつつあります。」

「自己の否定と再生、自由と束縛。時間はここではたっぷりとあります。」

「心の再生のために、ゆっくりと焦らずにいきましょう。ここにはそのために入院されたのですから。」


心の再生?いったいこれから何が起ころうとしているのだ。


ここは丘の上の病院、B1病棟と呼ばれる急性期の患者のみが入院する監獄である。
俺はどの看護師とも心を閉ざし、唯一羽田Dr.のみ家族の相談を通じて心を開いていた。
この閉鎖病棟は長時間自由を奪うことで治療効果をあげる森田療法の応用だと理解していた。
気に食わない看護師には食事で拘束帯が外された時に殴ったり蹴ったりしてうさを晴らしていた。
入院生活はとても凶暴で激怒する一面とまた楽しくてしょうがなく、いつも大声で歌を歌ったりすることがある。
活動能力が寸断に上がったままだ。

食欲も大盛で、大盛りのご飯をあっという間にたいらげた。
英語がしゃべりたくてしょうがなく四六時中英語を話した。
強制入院を仕組まれてこの様な有様になろうとは想像も出来なかった。
つい二日前の国立病院逃亡時は、生まれて初めての本来の自由を満喫していたのが嘘のようだ。

しかし、あの神の領域がまだ手元にある。
今、ここB1病棟では時間が止まっているように思える。
拘束帯で自由を奪われていれば考えることは、どうして自分がここに居るのかと言うことだ。
玲子は何故俺を信じないで強制入院させたのか。
何故最後まで会社との交渉をさせてくれなかったのだろう。
残された家族はもう自分を排除しようと思っているのか。
早く退院してこれ以上家族の傷が広がらないようにしなければ。
しかしここではただゆっくりと時間だけが過ぎて行き、目の前の現実と向かい合うだけだ。
全ては一変したのだった。
自分の置かれている状況を把握するのに一週間はかかった。



医療保護入院に際してのお知らせ

入院は精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十三条(第1項)の規定による医療保護入院。
入院中、手紙やはがきなどの発信は制限されません。
正し封書に異物が同封されていると判断される場合は
病院の職員の立ち合いのもとであなたに開封してもらいその異物は病院があずかることがあります。
入院中、人権を擁護する行政機関の職員、あなたの代理人である弁護士の面会やあなた又は保護者の依頼により
貴方の代理人になろうとする弁護士との面会は制限がされませんが、
それ以外の人との面会は貴方より病状に対して制限されることがある。
入院や治療上必要な場合には、あなたの行動を制限することがあります。


不明な点、納得がいかない点については、遠慮なく院内の職員に申し出て下さい。
それでも尚、あなたの入院や処遇に納得の出来ない場合は、
あなた又は保護者は、退院や病院の処遇の改善を指示するよう、都道府県知事に請求することができます。
詳しくお知りになりたいときは、病院の職員にお尋ねになるか又は
長崎県精神保健福祉センターまでお問い合わせ下さい。

病院の治療方針に従って療養に専念して下さい。

病院名 医療センター
管理者の氏名 院長 高田 一郎
主治医 羽田 伸治  受取者氏名 藤沢 拓哉

隔離を行うに当たってのお知らせ
藤沢 拓哉 様

あなたの状態が、左記に該当するため、これから隔離をします。
左記の状態がなくなれば、隔離を解除します。

他の患者との人間関係を著しく損なう恐れがある等、その言動が患者の病状の経過や予後に悪く影響する状態。
急性精神運動興奮等のため、不穏、多動、爆発性などが目立ち、
一般の精神病室では医療又は保護を図ることが著しく困難な状態。



国立病院を脱走してきた重症の躁鬱病の患者として迎えられたのだろう。
隔離病室は二組が隣り合わせとなる形で6畳くらいの広さに鉄格子、トイレとベッド以外は何もない。
病室は二十四時間監視カメラで患者を見張っている。
出入り口以外に食事を差し入れる小窓があり、ほとんどがこの小窓越しのやり取りとなる。
エメラルドグリーンの壁とノリニウムのベージュの床。真っ白なシーツ。
毎日の掃除も事欠かさないクリーンルームでもある。
俺は早速入院や処遇に納得が出来ないので、退院や病院の処遇の改善を指示するよう、
都道府県知事に請求を出すために、長崎県精神保健福祉センターに申請を出した。

何時もすきを見計らって脱走してやろうと淡々と狙っていた。
家族の事が気がかりでしょうがなかった。
そして拘束帯がはずされた時点で行動にでた。
監視モニターを水に湿らせたトイレットペーパーで、天井のカメラに貼り付ける。
ベッドを縦に立てて死角を作る。
看護師が慌ててドアを開ける瞬間を狙って外に飛び出す。
案の定、異変に気づいて看護師から呼び出しのコールが鳴る。
しかしたやすく病室を抜け出しても何重にも外界に出るにはドアがロックされており、脱走は不可能だと解る。

再びベッドに拘束帯で縛られてしまう。

入院後、こうした躁状態が数日続いた。
どうしても薬物療法で緊急に効果が現れない時は脳に直接電気ショックを与えるECTと言う最悪の荒治療がある。

こめかみに電極を当てて数秒間電流を5クール流す。
痙攣による嘔吐や脳出血の恐れもある最後の手段だ。
俺もECT療法に踏み切られる寸前であった事であろう。

そして二週間目から投薬の効果と躁状態のリバウンドの鬱状態へと急速に入っていった。
玲子に対しても何故この大切な時期に強制入院をさせたのか理解できずにいたし、不信感と恨みにも似た感情があった。
今は一日でも早くこの病院を退院して、考えていた仕事への復帰を果たしたい。

入院後躁状態のころ、隣の病室の人と声だけの奇妙なコミュニケーションをとっていた。
英語だけの会話で歌をリクエストして歌い合い、昔からの親友のような感じをお互いが感じていた。
ある入浴の日に遭遇し肩を抱き合ってお互いを確かめ合った。
想像していた通りの長身の髭のジェントルマンだった。

名前を石塚 博史さんといって、病棟内の事をいろいろと教えていただいた。
闘病生活は十年を超えている双極性障害患者だ。
躁転換してアルコールを大量に摂取して、駅のホームで意識を失ったらしい。
気がついたら此処でベッドに拘束されていたと言う。


四月二十四日に強制入院して隔離病室も二週間たって、投薬の効果が出始めてから一般の個室に移された。
個室からは出られないが、拘束も無く精神的にも落ち着いてきた頃だった。

一週ごとに開放時間を少しずつ長く伸ばしてもらった。
羽田Dr.とも信頼関係が出来つつあり病状の説明と経過の説明があった。
必ず屈み込んで目線を患者に合して話される。

「藤沢さんは躁極性感情障害という、いわゆる躁鬱病で、発病すれば一生管理が必要な病気です。」

「躁状態では自己の認識が不可能ですので、ご家族の方に躁状態であるかどうかを見てもらう必要があります。」

「ノルマやストレスが多い仕事は向きません。リハビリは自己にも家族にも必要です。」

「家族から恐れられるようでは生活できません。」

「百人に一人の割合で発症します。また医療保護を受けることができます。」


「奥様から手紙を託っています。今ようやく藤沢さんに渡すことができます。」


手にしたそれは小さな便箋に書いてあった。


* お父さん、羽田先生を信じて何でも心の内を相談して下さい。
お父さんの回復をお母さんは心より待ってるよ。こちらの事は何も心配ありません。   玲子*


兎と猫が遠くからお互いを思っているイラストが添えてある。
何度もその短いメッセージを読み返す。
しかし俺には何の感情も起こらなかった。
よほど羽田Dr.は自分の家族の心のケアーを親身になってしていただいたのだろうとその時思った。

躁状態が激しかった分、鬱傾向が現れてきたのでリスパダールとアキネトンを今日から少しカットしてもらう。

それは長い鬱状態との戦いの始まりであった。

 
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2017/03/25 (Sat) 17:00 | 双面拋光机进口流程 #EBUSheBA | URL | 編集 | 返信

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