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【C3病棟@】  世界の終わり

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世界の終わり







視界が霞んでいる。
身体は動かない。
声も出ない。
瞼が重い。

脳が殆ど機能していない。

「藤沢さんが気が付かれたようです。」

「3日間意識不明の状態でした。」

「看護師長を呼んできて下さい。」

天井のエヴァが違う。
幾何学模様も付いていない。
畳の上のようだ。
部屋全体が朽ちたような感じがする。

隣の住人が雄叫びを上げている。
激しく強化ガラスを叩いている。

「藤沢さん、わかりますか?」

「C5病棟、看護師長の徳永と申します。」

「C3病棟では手荒な扱いをされましたね。」

瞳だけで声の主を追いかけてみたが、焦点が定まらない。
何とか声を発しようと試みたが、呻きにしか成らない。
また意識が薄れてゆく。
暗闇だけが取り憑いて来る。

「藤沢さん、しっかり。意識を保って。」

優しそうな声だ。
しかし、もう脳細胞はパルスを送ってこない。
かなり脳にダメージを受けた様だ。

ジャック・ニコルソンの「カッコウの巣の上で」と全く同じだ。
正常な患者でも、此処では廃人にされる。
こんな処でクタバって居るわけにはいかない。
俺の信念は貫き通すしかない。
会社に復帰して、やらねばならない仕事が沢山ある。

「木村副院長は藤沢さんを長く入院させるつもりは有りません。」

「この病棟は重症な患者さんが多いので、隔離された方が良い環境ですごせます。」

「さあ、少しでも食事を摂って下さい。」

気分は頗る悪く、感情は鈍化したままだ。
耳鳴りがするのに、隣の住人の叫び声と
ドーン、ドーンと叩く爆音だけは幻聴の様に鳴り止まない。

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重症患者収容棟C5隔離室でも激しい鬱が続いている。
罵声や奇声、強化ガラスを激しく叩く音で、心臓が止まる思いだ。

あと3週間で、C5病棟隔離室から、そのまま退院する事を聞かされた。
こう言う衰弱した身体で、最悪の精神状態では社会復帰も叶わないだろう。

「奥様が面会に来られました。」

我が耳を疑った。申し訳ない気持ちで一杯になる。

ガラス張りの面会室で、玲子は椅子に座っていた。
眼鏡の反射で表情が読み取れない。

俺は突然嗚咽を堪えて泣き出してしまった。

「それは、何の涙なの?」

冷たくて、冷酷な声が聞こえた。
恐る恐る視線を合わせてみたが、玲子の目は完全に死んでいた。
そこには深い失望と、怒りを通り越した喪失感が伺えた。

「貴方はどれだけ家族を苦しめれば気が済むの?」

「退院したら、実家に帰って、ネット三昧でもしなさい。」

「一生、私達の目の前に現れないで。」

早く隔離室に戻りたい。精神が、本当に精神がもたない。
多分、玲子は俺以上に精神的苦痛を繰り返し味わってきたのだろう。

終わったな。全ては終わりだ。
俺は誰一人として幸せに出来かった人間だから、その報いで精神を病んだのだろう。
それなりに猛勉強をして、自己コントロールを心がけ、社会適合して来たのに無駄だった。
守られてばかりで、苦労を掛け続けてきてしまった。

本当に俺には家族というものが存在していたのだろうかと疑問に思う。
一時の錯覚だったのか。絆なんて初めから無かったのかも知れない。
俺が死んでも悲しむ家族なんて、もう誰一人としていないことは明白だ。

そうか。奴はこうやって精神的ダメージを回避して来たんだ。



無かった事にする。

死んだことにする。

そして、早く記憶から消し去る。



未来は其処からしか開くことは出来ない。
では、まだ生きてゆく価値が、動機が有るのだろうか?

強い希死念慮が襲ってくる。

「もう気が済んだろう。楽になれよ。」

かと言って、死ぬ動機も足らない。
武士の切腹なら出来るだろうが、これまでの人生を全否定しても良いのだろうか?
確かに死ぬことは楽だし、それで終わり。己の感覚器の全てが機能停止するのだから。
しかし、今までの人生において、生命の危機は幾度となく訪れていても、今尚繋がっていることこそが奇跡だ。
そこには必ず必然性が有るはずだ。

少年の頃は多感で、一日がとても有意義で長かった。
歳とともに、生きる事を疎かに過ごしてくるから、月日がとても早くなる。
これは、時間の問題では無いのだ。密度なんだ。
生きてゆく選択をこの先取ってゆくことは、俺の歳や病気も含めて困難を極めるだろう。

「だから、楽になっちゃえよ。みんな同じだよ。」

隔離室の冷たい鉄格子を眺めながら、俺の感情の希薄さを思い知らされた。
誰かを心から労ったり、憎しみを打ち消して精神を開放させることが出来なかった。
常に誰かを憎み続けて攻撃し、その負のエネルギーで生きてきた。

やはり、生きるに値しない人間なのだ。
死ぬことよりも、生きながら精神がバラバラになって、魂の抜けた只の有機体となる事がとても怖い。
それは宇宙空間に漂う、醜い腐敗した残骸になることだ。

そうだ、いっそ危険極まりない狂人となり、殺人を繰り返して射殺されようか。
その手段であれば、一秒も油断しないで「生」を感じられるかもしれない。

多重精神疾患を利用すれば、その潜在能力は計り知れない。

守るものなど何もないんだ。
俺の命は俺が自由に使うことが出来る。

果たして邪悪な事にしか、その力を使えないのか。
まあ良い。生きる為の手段と方法だけは解ってきた。
後は俺の「心」しだいだ。危険極まりない途轍もない怪物を現代社会に放つ事になるのだから。




良美




アダムオペル・ベクトラの中のスマートホンが着信音を鳴らしている。
重要クライアント先からのディスプレイ表示を確認して、
メールで添付しておいたプレゼン資料について少し話す。
ACRからの録音表示に「はい」とタッチして、最近のやり取りのデーターを脳に刻み込む。
こうして商談は確実に進行してゆく。
アポイントで会う事が出来た時には、笑談しかしない。

会社には有り余る利益で恩返しをするが、イカリヤ社長の経営方針には否定的だ。


痛い目に合わないと解らないようだ。


最近の俺は「世界は貴方の都合で回っている様に感じる。」とよく言われる。
皮肉のつもりだが、俺は本気だ。




「さてと、準備は出来たようだな。」

「そろそろ始めるかい?」






「私は何時でも貴方を守ります。」







「貴方の心音のままに。」









 



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風 蘭



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【C3病棟@】  世界の終わり | もう一つの OneNote

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【C3病棟@】  世界の終わり | もう一つの OneNote

2017/06/23 (Fri) 05:53 | Duplex Sm Fiber Adapters #EBUSheBA | URL | 編集 | 返信

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【C3病棟@】  世界の終わり | もう一つの OneNote
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2017/03/16 (Thu) 05:26 | fpbiypslyy #EBUSheBA | URL | 編集 | 返信

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